大判例

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旭川地方裁判所 昭和25年(人)1号 判決

請求者 宇山美世子

被拘束者 寺井敏子

一、主  文

請求者の請求はこれを棄却する。

被拘束者を拘束者に引渡す。

本件手続費用は請求者の負担とする。

二、事  実

請求代理人は、被拘束者を釈放する旨の判決を求め請求の理由として、請求者は寺井勇藏と婚姻中昭和八年八月五日被拘束者を出産したが、夫勇藏死亡後実家(森)え入り、昭和十五年一月二十四日宇山清と婚姻し、その後夫清も亦死亡した。被拘束者はその伯父寺井正直方に養われてきたが、同二十五年三月二十八日被拘束者の眞意に反し右寺井正直の恩義にしばられて泣く泣く拘束者(当二十年)の許に嫁入りさせられた。被拘束者が右嫁入りの直前請求者において旭川家庭裁判所に対し右寺井正直及び被拘束者を相手方とし被拘束者引取の調停申立(同年(家イ)第四七号)をした結果、被拘束者が今後一、二年間事物の判断ができるまで右結婚を延期し、右寺井正直方において働く方がよいとの結論に達し関係者一同了承し、右寺井正直方に止まることになつた。ところが、右寺井正直及び拘束者達は被拘束者の拒否するのを無視し、被拘束者に「自分の本心から嫁に行く」との一札を無理矢理に書かせて前にも述べたように拘束者方に嫁入りさせられたものである。被拘束者は爾來どうしても忍從できず、遂に同年四月二十三日、同月二十九日の二回にわたり請求者に密書がとどけられたが、拘束者は被拘束者の家出を警戒し、窓は釘づけにし「若し逃げれば殺す、叩く」とおどかし、被拘束者は拘束者の許から釈放されなければ自殺するより他に途がないと思い詰めている次第であるから、自ら請求者の許にくる自由は勿論結婚を破毀する自由も奪われているものと思われるので、本件請求に及ぶと主張し、なお請求者は本件請求の直前本件請求が被拘束者の自由意思に反しないことを確め、その眞意にもとづいてしたもので、被拘束者が請求者の主張事実中重要な点を否定するのは本件人身保護命令書が拘束者に送達されたので、被拘束者及びその親族が協議した上、被拘束者において或は本件裁判の結果によつては処罰される者も生ずることを聞かされ自分のみが犠牲になることによつて円満に納まるものと考え、一切を諦めたからで右は被拘束者が他から圧力を加えられた結果によるものであると述べた。<立証省略>

拘束者は主文第一、二項と同趣旨の判決を求め、答弁として請求者主張の事実中請求者及び被拘束者の身分関係並びに被拘束者が拘束者とその主張の日に結婚したこと請求者から寺井正直及び被拘束者を相手方として旭川家庭裁判所に対し家事調停申立がされたこと、拘束者が窓の釘づけした事実はこれを認めるが、その他の事実は否認する、請求者は被拘束者が満一歳に達する前亡夫寺井勇藏方に残して、宇山清と結婚したので、被拘束者はその祖母及び父勇藏の弟寺井正直に養育されて成人したもので、請求者は右勇藏方を去つた後絶えて音信がなかつたところ、終戰後外地より引揚げてきてからは被拘束者方にくるようになつた。被拘束者は昭和二十五年三月当時齢十六年九月になり、婚期の早い農家では謂ゆる年頃となつてきたので、育ての親である祖母がよい嫁入先を心配していたところ、偶々知人上原よし、多田太吉、櫻木春雄の媒酌で拘束者と婚約することになつた。請求者はこれを聞知し右婚約に反対して被拘束者の意思を飜えそうとしたが、その目的を達することができず、そこで請求者主張の家事調停の申立をしたが、之亦被拘束者を飜意させることができず、結局右の申立は取下げ、右被拘束者の祖母や伯父寺井正直は被拘束者を自分の娘同様に結婚の仕度万端を整え拘束者と同棲することになつた。右の次第であるから被拘束者の結婚はその意思にもとづいたもので、被拘束者は爾來拘束者の妻として共に農業に從事しているものである。尤も被拘束者が結婚後窓の釘づけしたのは近所に強盜があつたので、盜難予防のためしたもので、被拘束者の家出を警戒するためのものではない。なお請求者は昭和二十五年五月十五日頃拘束者方に來訪し、被拘束者が平穏に起居しているのを現認して安心した旨申し、手土産まで貰つて帰つた矢先被拘束者を終戰前まで顧みなかつた請求者が突如として虚構な事実を捏造して被拘束者を自分の意のままにしようとする本件請求は許されないもので、請求者の主張するような本件人身保護命令書送達後他から被拘束者に圧力を加えた事実はない。よつて本件請求はその理由がないから棄却さるべきであると陳述した。<立証省略>

被拘束者代理人及び被拘束者は本件請求は被拘束者の自由に表示した意思に反してなされたもので総て拘束者の陳述した通りである。なお被拘束者が拘束者と結婚直後請求者に手紙を出したことはあるけれども、当時母恋しさの余り誇張して書き過ぎた部分もあるが、被拘束者の眞意は今後とも拘束者と同棲していくつもりである。なお被拘束者は請求者の許に行きたくなれば何時でも拘束者の了解を得て行き得る状況にあると述べた。

三、理  由

被拘束者は本件請求は被拘束者の自由に表示した意思に反してなされたものである旨主張するので、先づこの点について判断するのに、請求者は本件請求をする直前本件請求が被拘束者の自由な意思に反しないことを確め、その意思にもとづいたものである、拘束者は本件人身保護命令書の送達を受けたため拘束者及びその親族が協議の上、被拘束者において或は本件裁判の結果によつては処罰される者もでることを聞かされ自分が犠牲になることによつて円満に納まるものと考え一切を諦めたためであつて右は被拘束者が他から圧力を加えられた結果によるものであると主張するけれども、成立に爭のない疏甲第三号証の一、二によるも被拘束者が本件請求の直前乃至その以降請求者に対しその自由に表示した意思に反していないことを認め得ないばかりでなく、請求者の他の全疏明によつても請求者の右の主張事実を認め難いので他の爭点について判断するまでもなく、請求者の本件請求は既にこの点において理由がないものと認め、手続費用につき人身保護法第十七條民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 山口昇)

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